僕ね、患者さんを診るとき「痛いところ」よりも「見えないところ」から探すんです。
肩が痛いのに、原因は骨盤だった。腰が重いのに、問題は呼吸だった。表に出てるものを揉んでも温めても、根っこを変えない限り同じことの繰り返し。10年以上、徒手療法の世界でやってきて、そういう患者さんを何人も見てきました。
で、子供の英語教育の話を聞いたとき、「あ、これ全く同じやな」と思ったんです。
英語教室に週2回通わせて、DVDも買って、英語で話しかけるようにして。それでも小学校卒業する頃には「英語嫌い」になってる子が、めちゃくちゃ多い。原因は英語じゃないんです。母語、つまり日本語の根っこが弱かったんです。
今日は、そのことを話したいと思います。

英語教室に通っているのに、なぜ話せないのか
「英会話スクールに3年通わせたのに、全然しゃべれないんです」
こういうお話をよく聞きます。正直に言うと、これ、スクールのせいじゃないことが多いんですよ。
問題は「英語の量」ではなく、その前段階にある「言葉で考える力」が育っていないこと。英語という器を用意する前に、器に注ぎ込む「思考」という水が充分に育っていない状態なんです。
言語は「道具」です。でも、その道具を使いこなすには「概念」が必要なんですよね。「さびしい」「くやしい」「なんとなくモヤモヤする」という感情を日本語で言語化できない子が、いきなり英語でそれを表現しようとしても、当然無理です。
器だけ増やしても、中身が育ってなければ何も変わらない。

言語は「根っこ」から育つ — カミンズの相互依存説
1979年に言語学者のジム・カミンズが発表した「相互依存説(CUP理論)」というのがあります。
簡単に言うと、「言語は表面的には別々に見えるけど、根っこ(思考力・概念力)は共通している」という考え方です。
氷山モデルってご存知ですか。氷山って、海面から見える部分はそれぞれ別の山に見えますよね。でも海の中に潜ると、実は根っこで全部つながってるんです。日本語と英語も同じで、海面上は別の「言語」に見えますが、深いところにある「言葉で考える力」は共有されている。
だから、日本語で論理的に話せる子は、英語を習い始めたとき伸びが速い。逆に、日本語で「なんで?」「どうして?」が言えない子に英語を詰め込んでも、どちらも育たない。
これは研究で繰り返し確認されてることなんですよ。

母語が弱い子に英語を乗せると起こること
「ダブルリミテッド」という言葉があります。
母語も外国語も、どちらも中途半端にしか育たない状態のこと。英語にも日本語にも思考の土台がない状態で、「どちらの言語でも深く考えられない」という状況です。
海外では移民の子供に多く見られる現象で、家庭では親の母語、学校では現地語、という環境で育った結果、どちらも「生活会話レベル」にしか達しない子が出てきます。
日本でも、幼少期から英語漬けにしすぎて日本語の発達が阻害されるケースが、ゼロではないんです。
僕ね、これを聞いて「病院と全く同じやな」と思いました。痛みを止める薬を大量に処方すると、体が本来持ってる「自分で治る力」を弱らせることがある。介入が多すぎると、本体の力が育たない。
英語が「邪魔者」になるかどうか、全部タイミングと順序の問題なんです。

「いつ」より「何を」先に — タイミング信仰の落とし穴
「英語は早ければ早いほど良い」という話、聞いたことありますよね。
確かに、発音の習得は幼いほど有利です。これは脳科学的にも確かめられていて、音を聞き分ける「臨界期」がある(諸説あるが、思春期前・12歳頃までとされることが多い)。
でも、「発音が良くなる」と「英語でちゃんと話せるようになる」は、別の話なんですよ。
英語圏の幼稚園に通う子を見てみると、ネイティブ並みの発音で英語を「言ってる」けど、中身が薄い子もいます。一方で、しっかり日本語でのコミュニケーションを積んだ子は、小学校高学年から英語を始めても、短期間で使えるレベルになることが多い。
「いつ始めるか」より「何を先に育てるか」の方が、はるかに大事なんです。

母語を育てる3つの方法
じゃあ、具体的に何をすればいいのか。僕が「これはいい」と思う3つを紹介します。
① 読み聞かせを「対話型」にする
読み聞かせは大事ですが、「読んで終わり」ではもったいない。「この子はなんでこうしたんやろ」「あなたはどう思う?」と問いかけながら読む。子供が言語で考える機会を作ることが重要です。
② 感情に言葉をつける
「それ、かなしいね」「悔しかったんやな」と、子供の感情を言語化して返す。感情を言葉で表現する力は、のちに「英語で自分を表現する力」の土台になります。
③ 物語を「続き」まで考えさせる
絵本の途中でいったん止めて、「この後どうなると思う?」と聞く。「こうじゃないかな」「なぜなら...」という言語構造を遊びの中で鍛える。これ、かなり強力な方法ですよ。
どれも「英語」は一切出てこない。でも、全部が英語習得の土台になっている。

英語の始め方 — 母語の土台ができてから
じゃあ、英語はいつ始めるのか。
僕の考えは「日本語で自分の気持ちと考えをある程度言語化できるようになってから」です。それがいつかは子供によって違うけど、だいたい4〜5歳以降、会話の中で「なんでかというと…」と理由が言えるようになってきたあたりが目安。
そのタイミングで英語に触れ始めると、「あ、この感覚、日本語ではこう言うやつや」という認知の橋渡しが起きて、学習の速度が全然違うんですよ。
英語の習得で大事なのは「母語の力をバイパスする」んじゃなくて、「母語の力をそのまま英語に転写する」こと。橋を渡るには、橋をかける足場がいる。その足場が母語なんです。
まとめ — 根っこを育てれば、枝はどこへでも伸びる
治療の世界で10年以上やってきて、一つ確信していることがあります。「見えない根っこを育てない限り、どんな枝も長続きしない」。
英語も全く同じだと思うんですよ。発音教室に通わせること、英語DVDを毎日見せること、それ自体が悪いわけじゃない。でも、その前に「日本語で考え、感じ、表現する力」を育てていますか、って話です。
子供の可能性は無限大です。でも、その可能性を引き出すには「正しい順序」がある。英語という花を咲かせたいなら、まず母語という根っこをしっかり張ることから始めてみてほしいんです。
まず今日から、読み聞かせの後に「どう思う?」と一言聞いてみてください。それだけで、子供の言語の根っこは確実に深くなっていきます。

